今日、11月28日はあの日。
木村悠vsペドロ・ゲバラの日。
2015年11月28日のゼビオアリーナ仙台。
八重樫東からKOでタイトルを奪い評価の高かったゲバラ。戦前の予想は木村にとって厳しい声が多かった。着実に実力をつけて世界挑戦を掴んだとはいえ、ゲバラ相手に勝ち切るのは至難では…正直なところ僕もそう思っていたけど、見事に裏切ってくれた。
商社マンボクサーとして会社員の仕事とボクシングの二足の草鞋で夢を追った木村悠。
一世一代の大勝負で接戦を勝ち切り、WBC世界ライトフライ級王座を奪取。堪えきれず溢れ出した勝利者インタビューでの熱い涙が忘れられない。
現役引退後の彼は現在 、業界初の「オンラインジム」を立ち上げてファンとの"新しいコミュニケーション"を提供してくれている。活動内容を知れば知るほど、素晴らしく意義あるコミュニティー。
更にYahoo!でのコラム執筆から講演に至るまで、マルチに活躍する彼の現在は引退後のボクサーの"理想像のひとつ"だと思う。
試合の記念日である今日、敬意を込めてあの一戦を振り返り、オンラインジムのメリットや期待についての自分の思いも発信したい。
試合回想までは木村、それ以降は木村氏と記します。
身近に感じる木村悠
木村悠というボクサーを以前からとても身近に感じていた。日本ランカーだった2012年頃にFacebookで友達になって以降、彼が発信する投稿をずっと見て来たから。
面識はなかったが共通の知り合いが多く、友達になりますか?とFacebookがおススメしてきたので、申請ボタンを押したのがきっかけだった。観戦企画を自ら発信したり、試合後の打ち上げや懇親会の告知など、今もそうだがこの頃からSNSの使い方が抜群に上手かった。
投稿される写真や観戦会の参加者の方々のコメントを読んでいると、誠実な人柄に加え、着実に階段を上ろうとする意思の強さが伝わって来る。
日本タイトル挑戦が決定した時の意気込み、日本タイトル奪取、世界ランク入り、世界挑戦の決定…喜びの瞬間を投稿を通してリアルタイムで生のメッセージを共有してくれる。
その状態が2年、3年と経つうちに面識は無くても身近に感じる様になっていた。商社マンと二足の草鞋でありながら結果を出していく姿に、いつしか尊敬に近い感情を持っていた。
戦前の不利予想
ある日、挑戦者自身がFacebookに世界挑戦決定のニュースを投稿してくれた。相手はメキシコのペドロ・ゲバラ。
八重樫東からKOで世界タイトルを持ち去った男。ロマゴン敗戦からの復帰で激闘王の返り咲きを期待したファンは、奈落の底に突き落とされた。
まだ王者として試されてない部分はあるものの、実力そのものは疑い様がない。試合前の正直な予想は6-4でゲバラだった。
KO負けはロマゴン戦だけのタフな八重樫がボディ1発で倒された瞬間の驚きのインパクトが脳裏に焼き付いており、今思えばその印象に引っ張られた感はある。
大学1年時に全日本選手権で優勝したトップアマチュアの木村。プロではこの時点で20戦17勝3KO。その戦績が表す様にKOパンチャーではなく技術と戦略で判定勝利を重ねてきた選手。
総合力は確かだけど世界上位レベルとの対戦経験は少なく、タイ人相手のデビュー戦以外は、すべて日本人選手との試合だった。メキシカンとの対戦はゲバラ戦が初になる。メキシカンと対戦した選手が口々に発する特有の間合い。パンチの伸び。それらを世界挑戦の大舞台で初めて体感する事になる。
このパターンの世界挑戦は、やってみて通用するケースもあるけど、及ばない事の方が多い。過去の傾向からすると"勝てなかった"ケースが多い事は現実だった。
ただ今回は不利でありながらも、そこまで圧倒的な総合力の差はないはず。木村の勝ちパターンがハマる試合展開も有り得る。それが来い…!そう願いながら見守った試合だった。
商社マンボクサーの世界獲り
勝手に身近に感じて来た木村の世界挑戦。
友人が世界に挑んでいるような緊張感。
序盤、木村は様子を見て相手の情報収集に注力したのでポイントはゲバラに流れた。
4回終了時の公開採点は39‐37が2人、40-36が1人で3者ゲバラがリード。
5回に最大のピンチが訪れる。
ポイント挽回を狙って攻めたところ、逆にゲバラの右クロスを貰って効いてしまったが、すぐクリンチに行かずフットワークを駆使して乗り切った。
この試合のターニングポイントは次の6回。
ポイント劣勢の中、5回に効かされて暗雲を感じたファンは6回に希望の光を見る。
流れを変える為に、木村から距離を詰めた。
木村が前進しながら右ストレート、左ボディーを打っていくとゲバラは打ち合いを長く続けようとせず、後退する。
7回以降、木村は完全に心を決めているのが伝わる。従来のスタイルではないものの、前進したらゲバラが下がって6回を取った。残りのラウンドは落とせない。この戦法でいくと。
八重樫をボディーでKOしたゲバラが、この日は自分がボディーで効かされた。
明らかにボディーを嫌がり、被弾直後は動きが鈍る。木村は間違いなくその手応えを掴んでる。
時には相打ち気味に果敢にパンチを合わせていった。ゲバラは一見派手に見えるコンビネーションを要所で打ってくるけど木村はブロックしており、パンチの正確性では明らかに木村が上回る。
8回終了時の公開採点は76-76、77-75、79-73の2-0でゲバラのリード。ポイント差は縮まったけど、ここからは落とせない。
9回以降も木村は6回に掴んだ好感触そのままに果敢に攻めた。王者の動きが鈍る。
ゲバラの当日の体重は54.8キロ。前日から6キロ近い増量は明らかに増やし過ぎで、動きに影響がでないワケがない。ここへ来てゲバラがガス欠感を露呈し、木村の小さくコツコツ当てる正確な左右は決まり続ける。
ゲバラの空振りで場内が沸く。パンチを見切ってきた。期待感に包まれ木村コールが鳴り響いた。
これは…獲れるんじゃないか。
このまま押し切れれば獲れるんじゃないか。
6キロの増量なんて意図的にしかできない。木村をなめてたんじゃないのか。
こっちは人生賭けてんだよ。
獲りたいのは今日なんだよ!
10回と11回、木村の右ストレートが何度もゲバラを捉える。ダメ押しのダウンが欲しいけど、さすがにゲバラも粘って来る。
時おり連打してくるゲバラの強打。見栄えは良いがワイルドでコンパクトさに欠ける 。この終盤でも木村のブロッキングが良い。
スウェーを多用するタイプじゃなく、ブロックして直後に打ち返す左右上下の引き出しを多く持って終始冷静に戦う。キャリアを通じて地道に自分のスタイルを追求して来た木村のボクシング。世界初挑戦の舞台でメキシカンの王者を後退させて見せた。
12回、最終ラウンドも木村は前進し続け試合終了。
どうだ。勝ったか?
不利を予想された木村のこの試合ぶりは高く評価されるだろう。もしも結果が惜敗でも次のチャンスは来るはずだ。
でも願わくば今日…どうだ。
どうなんだ。
涙の勝利者インタビュー
リングアナが採点を読み上げる。
117-111 ゲバラ
115-113 木村
115-114 木村
2-1で木村悠の勝利!!!!!!!
やったああああああああああああああああ
WBC世界ライトフライ級新王者、木村悠の誕生。マイクを向けられた木村は既に泣き顔だった。
「応援してくれる人達の声援が本当に心強くて、前に…」
前に出ました、そう言おうとしてるけど言葉にならない。ここでつい、貰い泣きしてしまった。
WOWOWで実況を担当した高柳アナの絶叫テンションも、判定直後は軽量級ながらタイソン戦の時の様な熱を帯びていた。
ゲバラは判定に不満をブチまけたが、2-1の勝利は木村のもの。ボクサー木村悠は自分の持つ全てをぶつけて見事に接戦を捥ぎ取り、この日は彼の2度目の誕生日になった。
二足の草鞋で世界を獲るのはセレス小林以来じゃないだろうか。翌日の新聞各紙も「商社マン、世界奪取」と1面で報じている。
勝者は商社マンか…なるほどね。
業界初、オンラインジムの活動意義
彼が現役引退後に立ち上げ、会員数が増え続けているオンラインジム。ジムという名称だが、会員制コミュニティなのでサロンとも呼んでいる。
「ボクシングファン同士の交流」
「ボクサーの活躍の場を増やす事」
を目的とし"きっかけはボクシング"をコンセプトに人との繋がりや新たな発見、何かを始めるきっかけの場にして貰いたい。ボクシングをもっと盛り上げたい!という思いから立ち上げられたコミュニティー。
具体的に何をやるかというとこちら。
オフライン
1.ボクシング観戦会(解説付き) 随時
2.お茶会、飲み会 月1回
3.ボクシング体験会 月1回
4.ゲストトークショー開催 随時
5.木村悠が行く取材現場の見学 随時
6.ボクシングが盛り上がる企画 随時
・井上ドネア戦後の打ち上げ
・内山高志氏のジム「KOD LAB」でのボクシングレッスン
・拳四朗氏を招いてのトークショー
※写真の掲載は全て木村氏より承諾をいただいております。
オンライン
7.クローズドな情報配信 毎週
8.対談動画や記事の公開 毎週
9.試合の解説、裏話 不定期
10.オンライン試合観戦会 不定期
会費
月額3,000円
※チケット代金・お食事代などは、別途料金
※オプション付きのVIP会員コースも有り。
こんな方におすすめ
・ボクシングが好きだが、周りに好きな人がいない
・ボクシングをやってみたいが、ジムに通う勇気がない
・強くなりたい、痩せたい、自分を変えたい
・ボクサーと交流したい
・ボクシングに興味があり、コアな情報を知りたい
詳細・会員申し込みはこちら
このリンクからどうぞ。ジムであって、コミュニティーであるところが最大のポイントだと思う。
ボクササイズに興味はあっても、いざジムに体験や見学にいく事へのハードルはけして低くはないはず。このサロンであれば同じ様な関心度合いの人達とボクササイズ体験会に参加出来るので、やってみてもっと掘り下げたいと思えば通うジムを見つけて通えば良いし、月1のボクササイズで十分と感じたらそうすれば良い。
選手をきかっけにファンになる人も多いので、好きな選手のトークショーや企画を見つけたらまずその時だけでも行ってみれば良いと思う。その場の雰囲気で自分に合うと感じれば、他のイベントにも参加してみれば良いし、お目当てのイベントがある月だけ入会しても構わないはず。色々なニーズのファンに門戸を開いているのだから。
これから先への期待
「お金を払っている人を幸せにしないといけない。お金を貰っている人が幸せになってはダメです。ただのファンクラブにはない付加価値。ファン同士が交流できるコミュニティーにはそれがあると思っています」
その信念は商社で働いて世の中の仕組みをよく知る彼が言うと、一段と説得力が増す。
スポーツ業界に限らず、世の中で求められる付加価値とはそういうものだと僕も思う。
そんな思いのもとにはじめたこのオンラインサロンの会員数は100名を突破した。
素晴らしい試みだと思うし、ボクシングとファンを繋ぐ場所且つライト層が気軽に立ち寄れる場所としてニーズがあったのに、今まで無かったものなのでとても有意義。
少しでも興味がある方はぜひ、気軽に体感してみてはどうだろうか。このオンラインサロンはこれから200人、300人と会員を増やしきっと業界にとってなくてはならない存在になると思し、そうなって欲しい。
現役時代の様に、地に足のついた発想と初志貫徹の強さでマルチに活躍の場を広げる木村悠氏。いつかご本人にお会い出来た時、最初に伝えたい事は何か。
2015年11月28日。
何人もに言われてるだろうけど...あのゲバラ戦で貰った勇気、感動をぜひ伝えたい。
了
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