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Tokky
ボクワン運営者
ファン歴30年のボクシングファン。当メディア運営者のTokkyです。選手のセカンドキャリア、各界のファン達を始め人にフォーカスした独自の切り口での取材記事を発信しております!

匠のカレー職人「フクイのカレー」福井英史

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皆様こんにちは。拳人のセカンドキャリア#14はこのお方。元金子ジム所属のJrフライ級ボクサーで現在は店舗を持たず自宅で「フクイのカレー」の製造販売を行うカレー職人、福井英史さんです。広告宣伝を一切せずとも口コミで評判が広がり、高いリピーター率を誇るのはなぜなのか?その秘密は福井さんの現役時代のルーチンにありました。お客さんとのエピソードから味の追求の拘りまで掘り下げてお話を伺っております。

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チケット販売まで含めてプロボクサー

ボクシングを始めたきっかけから、金子ジム入門までの経緯を教えてください。

「小さい頃から親がテレビでボクシングを観てたので一緒に観てました。具志堅用高さん、ガッツ石松さん、工藤政志さんの試合が印象深いです。具志堅さんが身長162センチ体重48.9キロだと知り、階級制のボクシングなら体の小さい私でも体格のハンデなくやれるのではと思ったのがきっかけですね。始めたのは高校の時です。高校卒業にすぐに金子ジムに入門して合宿所に入りたかったのですが、合宿所が一杯で入れなかったので寮付きのレストランスエヒロシステムに入社。それから金子ジムに入門です。3交代勤務の合間に練習しながらアマチュアの試合に出場。翌年には金子ジムの合宿所に入れたのでスエヒロシステムを退社し、昼間はレストランでアルバイトをしながら夜にジムワークという生活になりました」

具志堅さんと同じ階級であるJrフライ級でデビューされ、11戦5勝5敗1分の戦績を残されています。現役時代を振り返って思い出に残っている出来事をお聞きしたいです。

先輩からの叱咤激励

「金子ジムの先輩から練習・減量・チケット販売まで含めてプロボクサーだ。それができないならボクシングはやめろと言われました。その言葉でプロとしての意識が高まったというか、やらなきゃ!と思いましたね」

御礼状の効果を体感

「金子ジムの会長から何度も言われていたことがあります。《お客さんからチケットの注文や、撮影した試合の写真をいただいたら御礼の手紙を書きなさい》手紙なんて一度も書いた事が無かったのですが、見よう見まねで書いて送ってました。毎回欠かさずに送っていると、2度3度と試合に足を運んでくれる人が増えていったんです。この経験は今の仕事にも大いに役立っています」

生活リズムの大切さ

「試合に向けての減量ですが、体力がなかった私には一気に体重を落とすのは体への負担が大きいので、試合の4週間前に4キロオーバーにして、そこから1週間に1キロ落として1週間前に一度リミットにしてました。その調整をスムーズに行うには普段からハメを外し過ぎず、規則正しい生活リズムで毎日を送ることが大切だと学びました。今振り返ると負けた時は必ず負けた理由があって、その原因のほとんどは自分が作っていたと思います」

言われた事を素直にやる。負けた時は他責にせず自責で考える。できない人の方が多い事を福井さんはすぐに実践されていたんですね。引退を決意されたのはどのタイミングでしょうか。

「11戦目の最後の試合で初めてTKO負けした時です。自分がやれるボクシングはやり切ったと思えましたので、現役への未練は一切なく、その試合を最後に引退です」

店舗を持たない販売スタイル

現役中から引退後はカレー職人の道を考えていましたか?

「いえ。引退してから5年間は肉の万世で働いたのですが、そこでカレーを作った事がきっかけです。それまでアルバイトでカレーを作った事はありましたが、自分でイチからレシピを考えて作ったのはその時が初めて。メニュー候補として提案したら採用されてお客様にすごく好評でした。《カレーで人を喜ばせること》を経験した分岐点ですね。それから豊橋に戻って少しの間、飲食関係の仕事をやった後で独立です。カレー、食べるラー油、ケーキなどの冷凍食品の製造販売を事業として始めて今に至ります」

店舗を持たず、自宅で製造販売を行うスタイルを選択された理由が興味深いです。

「ある有名なフレンチレストランのシェフの本に《みんな独立と言ったらいきなり店舗を構えようとするけど、そんな事しなくても自分の料理を作って販売して良いんだよ。賃料などの固定費もかからないから》と書いてあるのを読んで確かにその通りだなと。ちょうど自宅の横に使っていない物置部屋がありましたので、改装して調理場にしました」

自宅を改装した調理場で調理する福井さん

商品をカレーにしたのは、肉の万世時代に福井さんのカレーが人気になった成功体験があったからでしょうか。

「それもありますが、友人との世間話からヒントを得ました。友人の親の話で、高齢者になるとカレーを作っても夫婦2人で食べきれない。でもレトルトカレーだと味気ない。でもカレーは好きな食べ物なんだよね…と。それならその悩みを解決するカレーを作りたいと考えたんです。最初のお客様は地元の豊橋の知り合いだけでしたが、口コミで美味しいと広げて貰って少しずつ販路を広げて行きました」

手書きの御礼状に込める思い

現在の福井さんの仕事の一日の流れをお聞きしたいです。

「カレーの仕込みは2日間に分けて行います。1日目はカレーの素作りです。少し大きめにカットした玉ねぎ、季節の野菜を弱火で2時間ほど炒めて香辛料、トマトの水煮等を加え1時間ほど煮詰めてから冷まして、一度冷凍します。2日目に肉、調味料、前日に作ったカレーの素を加えてじっくり煮込み、出来上がったら氷水で冷やして、冷めたら計量して冷凍です。その翌日にカレーの包装となります。空いている時間に同封する御礼の手紙を書いたり、発送の準備をしております」

新規獲得の為の広告宣伝はされてないので、リピーターのお客さんが中心かと思います。開業後どの様にしてフクイのカレーを広めて行かれたのでしょうか。

「カレーを食べてくれた方がブログやSNSで紹介してくれて徐々に広がって行きました。その評判を見聞きしたWEBメディアやテレビのニュース番組で取り上げられた事もあります。商品を送る際は購入してくださったお客様のことを思い浮かべて手書きの御礼状を添えてます。リピートしていただける率は高いですね。最初の頃は横書きのラフな手紙でしたが、あるお客様からとても丁寧に綴られた縦書きの手紙でカレーの感想をいただいた時にとても感動したので、それからは縦書きにしています。カレーの食べ方と感謝の気持ちを述べるだけですが、私の近況報告も交えることもあります。御礼状に返信をいただく事もあるので楽しいですね。メールの自動返信だけならそれに返事が来る事は無いと思いますので、心を通わせられる方法として手書きの御礼はとても良いと思います。暑中見舞いと年賀状は毎回300枚お送りしており、それを見て思い出して買ってくださる方もいます」

日本初の世界王者の言葉

フクイのカレーを営む中で、福井さんが心がけている事。大切にしている事について教えてください。

「白井義男さんが生前《ボクシングは2階席のお客様が一番大事。リングサイドに来てくれる人も大事だけど、工場から油で汚れた服を着替えずに飛んで来て、300円の2階席で声の限り応援してくれる人。 僕はそういうファンを大切に思ってきた》と語っておられました。私の現役時代のファイトマネーはチケットです。地方の出身なので東京に友人・知人は少なく、職場の皆さんに買ってもらうしかありませんでした。平日の夜18時に後楽園ホールに来るのは難しかったと思いますが休日・勤務シフトの変更などで工夫して試合の応援に来てくれたのです。朝は走って仕事に行って夜はジムワークの日々。昼間の仕事をしっかりとする事によって《福井はボクシングも真面目に取り組んでいるのだろう》と感じてくれたから職場の皆さんは買ってくれたのだと思います。 私が販売していたチケットは、まさに白井義男さんが語られていた2階の自由席。この時に感じた気持ちを大切にして、忘れないようにしています。今もSNSで内容を詳細にお知らせしているわけではありません。それでも私を信じてカレーの御注文をいただける事を大変嬉しく思っております」

繋がりが出来たお客様との、カレーにまつわるエピソードも是非お聞かせください。

勝負カレーはフクイのカレー

「孫の彼氏が医師の国家試験を受けるから、合格を祈願して福井さんのカレーをプレゼントしたいと注文をいただいた事がありました。大切な人が負けられない勝負に挑むときに、私のカレーを食べさせたいと思ってくれた事がとても嬉しかったです」

世界バンタム級王者の勝負メシ

「山中慎介さんが日本王者になった頃、ボクシングマガジンの当時の編集長が山中さんにフクイのカレーを渡して下さったんです。それがきっかけで山中さんが気に入って下さり、それからは試合の度に、減量に突入する前のお腹一杯食べれる最後の食事としてフクイのカレーをルーチンにされてました。世界タイトル12回防衛の名チャンピオンです!そんな凄い選手が試合前に私のカレーを食べてくれる。元ボクサーとしても、カレー職人としても本当に誇らしくてありがたい思いでした」

尊敬する田辺年男さんのフレンチ「ヌキテパ」での山中慎介さんと福井さん

本当にこの味でいいのか?

カレーを美味しく食べて貰うために工夫している事、拘っているポイントについてもお聞きしたいです。

「金子ジムの先輩であり、現在料理研究家として活躍中の野崎洋光さんからいただいた《料理は美味し過ぎてはいけない》《カレーは家庭で作るカレーが一番美味しい》という言葉を大切にしております。全国各地から御注文をいただく中で、それぞれの御家庭で一皿に盛るご飯の量や硬さ等は違うという事が分かりました。お客様からカレーの量に関する御意見も多くいただき考えた結果、カレーは少し濃い目に仕上げておいて、それぞれの御家庭で好みの濃度に調整していただく事にしております。目指すのは家庭のカレーの様でありながらその味を少し超えていて一口目で美味しいと感じる味です。特徴的な味ではなく一口、二口、三口と食が進んで最後に満足感が残る味です。カレーの追求には終わりがありませんので、毎日試行錯誤の繰り返しであります」

追求し続けるという事は、同じ味をキープするのではなく絶妙に味を変え続けるという事でしょうか。

「そうです。野菜は採る季節によって味が違います。夏のキャベツと冬のキャベツは違いますから。豊橋は全国屈指の農業地帯ですので豊橋産の美味しい野菜の、その季節ごとの美味しさをカレーの味に加えたいです。それが差別化になると思います。100点だと思って作り始めますが、出来上がった瞬間に本当にこれでいいのか?と毎回自問自答しています」

手の皮がむけるくらいやれ!

ボクサー時代の経験が、カレー職人の仕事にどう活きているかをお聞かせください。

規則正しい生活リズム

「ボクシングの素質がない事はわかっていたので、規則正しい生活をして、体調を整えて毎日しっかり練習が出来るようにと考えておりました。仕事の内容は掃除、調理、梱包、発送といつも同じような感じです。慣れてきて寝不足などがあると集中力が途切れてしまいます。そんな時に事故は起こるものです。そういう事がないように、今でも規則正しい生活が出来ている事は良かったと思っております」

答えのない追求の継続

「ボクシングは試合の度に対戦相手が変わり、相手に合わせた対策や練習を求められました。カレーの味も同じで、一度美味しいと言って貰えたらずっと同じで良いというものではありません。本当にこれでいいのか?と自問自答するスタンスの基本のマインドはボクサー時代に芽生えたものです」

絶妙に味が変わり続けるフクイのカレー

手書きで伝える感謝

「チケットを買ってくれた人に手書きの御礼状を出しているうちに、2度3度と試合に足を運んでくれる人が増えた成功体験。そのままカレー販売に当てはめる事で、沢山のお客様達との継続的な繋がりを持つことが出来てます」

仕事の本質もボクシング

「元バンタム級ボクサーで、フレンチレストランのヌキテパを開業して大成功している田辺年男さんと引退する直前にお会いしたんです。本格的に料理の道に進む事になった時に田辺さんにいただいた言葉が《料理の基本は掃除。ボクサーの時は手の皮がむけるくらい練習しただろう。手の皮が剝けるまで床を磨き、便器を磨き、窓を拭きなさい。ボクシングの時と同じようにすれば、第二の人生で失敗するわけない》カレー作りも本質を辿ればボクシングと同じだということがわかり、今の仕事をボクシングをしている感覚で取り組んでます」

値上げする価値のあるカレー

最後にフクイのカレーが目指すこれからの目標、成し遂げたい事をお聞きしたいです。

「もっと値段が高くてもカレーを買って貰える人になりたいです。味がどうとかではなく福井英史が作ってるならこの金額でも買いたいと思って貰える人間になりたい。今はひとつ1,260円ですが、原価高騰の影響で値上げをする場合に1,310円になるかもしれません。ですが今の私は自分が1,310円で商品を提供できる人ではありません。まだ人間として《その格》だとは思ってない。ここで調子に乗ってはいけないと考えてます」

値上げをしてもいい人間になれたかどうかの判断基準としては、何が出来れば及第点になるとお考えでしょうか。

「難しいですよね。それは感覚的なものです。今の方針のままブレずに続けて行けば、いつかなれると思います。それと引退後に料理の世界に興味がある選手達には、私のようなやり方もあるという事を知ってほしいですね。今は飲食の世界も労働時間が短くなり、最低賃金も上がり、今後は飲食店で人を雇う事も難しくなってくると思います。もし自宅を改装する事が可能であれば、大きな資金を掛けなくても、食品の製造販売業は出来ますのでセカンドキャリアの参考になれば嬉しいです」

取材を終えて

福井英史さんは「継続の達人」です。

派手な広告や特別な販促施策を持つわけではなく、あるのは手書きの御礼状を書き続けること、規則正しい生活を守り続けること、本当にこの味でいいのか?を自分に問い続けること。一つ一つは決して特別なことではありませんが、多くの人が続けられないことを当たり前のように積み重ねています。ボクシングもカレー作りも、誰にも見られてない時間をどう使うかで結果で現れる世界。「値上げしても買いたいと思ってもらえる人間になりたい」という言葉には、技術や味をどうこう言う前に、人としてどう在るべきか?という謙虚で誠実な福井さんの思想が込められていると感じました。特別なことではなく当たり前のことを続けること。フクイのカレーが選ばれ続ける理由はそこにあるのだと思います。

以上、拳人のセカンドキャリア#14「匠のカレー職人 フクイのカレー 福井英史」でした。

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