進撃のボクヲタ

30代会社員のボクシング観戦記&その他の雑記

八重樫東の挑戦 MOVE ON ~切望の夜~

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2019年12月23日。
横浜アリーナ。

 

「最後の挑戦」

そう言って上がったリング。

 

 

相手はIBF世界フライ級王者、モルティ・ムザラネ。2年半かけて掴んだ世界王座返り咲きのチャンス。

 

熱い載冠劇、ポンサワン戦。
魂を揺さぶる井岡戦・ロマゴン戦。
涙の復活劇、五十嵐戦・メンドーサ戦。
悪夢のゲバラ戦、メリンド戦。

 

この日また、ムザラネ戦という八重樫東にしか出来ない試合がファンの記憶に刻まれた。

 

当日の観戦記から、ご本人との時間の事まで伝えたい思いが溢れ出して止まらない。

 

試合回想までは八重樫。
それ以降は八重樫さん、八重樫東と記します。

 

INDEX ・戦前の予想と希望
・回想:加藤との会話①
・横アリ入口前での素敵ショット
・神席。これぞ「リングサイド」
・八重樫東の挑戦
・激闘王との思い出
・表現者達
・回想:加藤との会話②

 

 

 

戦前の予想と希望

予想は八重樫が不利とされていた。

ムザラネは過去にテテやカシメロにTKO勝ちしており、先日のWBSS決勝で井上尚弥と年間最高試合を演じたドネアとも戦っている。目の負傷によるTKO負けだがダウンすることもなく、全盛期を迎える頃のドネアと堂々と戦った。


日本人の挑戦者も2人挑んでいるが、安定感抜群の試合運びで危なげなく退けている。

 

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序盤のKO勝ちは少ないもののKO率自体は低くはない。長い腕とキャリアを活かして老練に戦う37歳の熟練王者。逆立ちしても勝てない程の怖さはなさそうに見える。だからこそ崩すのは至難の技。

 

これまで見事に3階級を制覇し、猛者達と激闘を演じてきた八重樫でも直近2~3年の対戦相手のレベルとリングパフォーマンスを比較すると、不利と言われるのは当然でもあった。

 

それでも2人が戦うシーンを想像すると、いくつか想定される試合展開の中に八重樫が勝つパターンは間違いなく存在する。


当日、どういうスタイルで挑むのか?
八重樫が選ぶスタイルにファンの話題は集中。このエドガル・ソーサ戦の様に戦えば、勝機有りと予想するコメントをよく耳にした。

 

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この2人の戦いは間違いなく噛み合うはず。
どこかで八重樫のチャンスは必ず来る。

回想:加藤との会話①

この試合が発表された翌週のある日。

後輩の加藤との居酒屋での会話。

 

彼は3年前ぐらいからボクシングを見始めており、試合会場には行かないけどテレビ中継はチェックしていた。良くも悪くも、思った事をハッキリと口にするタイプ。

 

「おれ中村アン好きなんですよ~。八重樫がメリンドに負けた時、アンちゃん泣いてましたね。今回も泣くことになるんじゃないですか」

 

こ、こいつ・・・

 

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確かに中村アンは泣いてた。
でもそれは過去の試合の話だろう。

 

「長谷川穂積の最後の試合を知ってる?」

「あんまり詳しくないっす」

 

ほほう。なるほど。

それはよくない。

 

お仕置きとしてまず、トイレで席を外した間に彼の分の唐揚げを全部いただいた。

 

「あれっ。ない!」

「ないじゃねーよ。とりあえず聞け。そしてコレを見ろ!」

 

こういう奴には長谷川ルイス戦の熱弁とその動画を見せる事。それが一番効果的に違いない。

 

2016年9月16日。当時35歳で全盛期を過ぎたと言われていた長谷川穂積は、圧倒的不利の予想を覆して見事に世界王座に返り咲いた。

 

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今回の八重樫ムザラネ戦と長谷川ルイス戦は似ている。挑戦者の年齢や置かれた状況、ファンの予想と希望が真逆である点など共通点が多い。

 

やはり動画を見せた効果はあった様で、加藤はテンションUP。

「9回の打ち合い、これ凄いですね!」

「おまえ、八重樫ロマゴン戦は見た?」

「有名な試合なのは知ってますが、見てません」

 

ほほう。なるほど。

それはよくない。

 

ボクシングファンの間では説明不要の伝説試合となった八重樫ロマゴン戦。動画を見て所感をLINEしなさいと宿題を出して終わった。生観戦にも誘ってみたけど、自分にはまだ早いですと言ってお断り。

 

「わざわざ会場に行ってまでは…テレビで十分です」

 

それでも深夜の録画中継の日本タイトル戦などを見逃さずに拾ってたので、もっとボクシングを知りたいという思いは感じられた。

 

加藤は前職の後輩で27歳。年はひと回り近く離れてるけど、職場が変わってもこうして会ってくれるのは嬉しいもの。

 

ボクヲタの素質があるかどうかは分からないが、鍛えてみる価値はありそうだ。

横アリ入口前での素敵ショット

この日は村田、八重樫、拳四朗の世界戦。

 

取り急ぎ発売と同時に押さえたのはリングサイドC席。発券して席の位置を確認すると・・・

 

E列だった。

リングに向かって正面の席が好きなので、斜めの角度は正直言って微妙。

 

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チケットを取る事さえ難しい興行ならこの席でも良いけど、まだ全種類たっぷり残ってる状態でこの位置は残念。

 

去年からWBSSで"アタリ席"が続いていたから、神が運を平等に采配したのか。試合が近づくにつれニュースやSNSから八重樫の好調ぶりと覚悟が伝わる。

 

席をグレードアップしたいけど、一度買った席はキャンセルも交換も不可。かと言ってオークションで売れる場所でもなければ値段も中途半端。

 

10秒だけ悩んですぐ決めた。
リングサイド最高額の席を買おう。

 

このE列の席は、試合が終わればただの紙キレ。だったら誰かに譲り渡そう。それでいい。決めたら即、行動派なのですぐにリングサイド席を申し込んだ。

 

そして当日。

午前中だけ会社に行き、夕方に会場へ。

 

横浜アリーナの正面玄関の真向かいに「横浜ハイボール」というお店を発見。

前面のガラスに村田諒太の写真が沢山貼られている。

 

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今日の試合のポスターもある。

目の前に試合会場があるんだから、お店の中で観るより生観戦したくなるのでは?と思ったところ「DVD放映中」の文字を見て納得。

 

開場までの間にDVDを流すことで、早めに横浜入りしたボクシングファン達を集客出来るに違いない。今度入ってみようかな。

 

まだ日が落ちる前のアリーナ正面玄関。

 

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村田とバトラーの大きなポスターを会場の前で見ると、ミドル級の世界戦を間近で観戦出来るという興奮が高まる。そして「八重樫東」の文字。

 

中に入ろうとしたその時、

見覚えある笑顔が視界に入った。

 

あれは・・・

今日試合をするWBC王者、拳四朗のライバル王者。WBA世界Lフライ級の現役王者じゃないか!

 

「きょ、京口すわん!」

 

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ベストなタイミングでお声がけに成功。

ナイスショットをゲット。

 

「来年の試合も楽しみにしてます!」
「ありがとうございます。嬉しいです」

 

個人的には"マッドボーイ"よりも"和製ロマゴン"のほうがしっくり来る。
日本ボクシング界の貴重な宝石、京口紘人。

 

この日の京口氏のインスタには武井壮氏との肉会ショットがアップされていた。武井壮氏が可愛がりたくなるのも分かる。
好青年だもの。瞳がとってもピュア。

 

他にも彼と記念写真を撮りたそうな人が沢山居たので、早々にアリーナ内へ。

神席。これぞ「リングサイド」

アリーナの廊下を進むとグッズ売り場が。

 

WBSS決勝の玉アリのグッズ売り場は人でごった返していたけど、今日は随分と落ち着いた雰囲気。買いたい人はじっくり見て焦らず買えそう。

 

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時間帯によってはもっと人が集まってたのかもしれない。

 

試合観戦や記念写真は大好物だけどグッズにはそこまで強い興味はないタイプなので、このパンフレットと村田クリアファイルが貰えればそれで十分。

 

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このクリアファイル。
「激闘王バージョン」も作って欲しいな。

 

アリーナの中に入る。

煌びやかな照明が眩しい。 

 

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WBSSの前からフジボクシングの演出はこれ系だったけど、WBSS後は照明の数が少し増えた様にも感じる。気のせいかな。

 

リングに近づいていく。

席を探し歩く時の高揚感がハンパない。

 

もっと前。

まだまだ・・・もっと前に行ける。

 

見つけた!

わざわざ買い直した最高価格の席。

 

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か・・・神席!!!

 

約30年弱、ボクシングを観てきた中で世界タイトルマッチをこんな近くで観れるのは初めて。

 

今回、なぜこんな席が買えたのか。色々な要素が絡み合った結果だと思う。

 

去年まで12月23日は天皇誕生日で祝日だったけど今年は平日であること。チケットの値段が高額(内容も最高)だったWBSS決勝の翌月である事。他にも様々な要因と"運"も交差して、僕の様な一般ファンがこんな場所を買えたんだろう。

 

あの時、買い直しを決断して良かった。

八重樫東の挑戦

運命の時間が訪れる。

 

入場曲はAK-69の「MOVE ON」

八重樫が入場して来る。

 

今日という舞台に、変わらずこの曲を選んでくれたのが嬉しい。

 

素晴らしいジミーレノンの「アキラ・ヤエガシ」コール。残念ながらテレビでは選手コールは中継されてなかったらしい。

 

試合が始まった。

 

「八重樫やったれ!」

「東さん頑張って!」

 

祈りを言葉にしたファン達の叫びが響く。

 

フットワークを使ってリズムを取る八重樫。
調子自体は良さそうに見える。

 

ハンドスピードのノリも良い。
お互いにガードの上から左右を叩いた。

この時、どう感じたんだろう?このパンチなら行けると感じたのか、それとも違ったのか。

 

初回は八重樫がやりたい事を出来たラウンドに見えた。

 

2回、足を使いながら接近したタイミングで右ボディーをムザラネの脇腹に差し込む。

 

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3回、王者がプレッシャーを強めてくる。

 

八重樫はうまくいなしながらボディーを叩き込んだ。序盤にボディーでクリーンヒットを奪う感覚を掴んだのは大きい。


リーチの長いムザラネの、ガードの内側と外側に的確に入るボディブロー。

 

4回、試合が動く。

八重樫が一気に攻め込んだ。

 

左右のボディからガードのど真ん中をアッパーで突き上げた後、そのままラッシュを仕掛ける。ファンも歓声で後押しし、更に追撃の連打!

 

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王者も反応が早い。

八重樫のこの攻め方を想定していたので、体の重心を変える事なく冷静に打ち返してくる。

 

パンチをまとめた後、サイドに動いて欲しい八重樫。正面に立って足を止めた瞬間にムザラネの左右が飛んできた。リングサイドに被弾した八重樫の汗が飛び散る。

 

挑戦者は少し笑っている様に見えた。

 

4回のラッシュについて僕と友人の見解は違う。友人の見解はこう。
「激闘王に火がついた。いっちゃえ!で打ち合ったんだろう」

 

僕の見解はこう。
「距離を取っての攻防で明確にポイントが取れるなら、それを続けたはず。3回まで戦って続けられないと判断した。どこかで行かないと。3階級を制覇してきた男の"勝負勘"が行くのはここだと決めた」

 

真相は本人に聞かないと分からない。

5回、6回も打ちつ打たれつの攻防が続く。

 

互いのスタイルが噛み合う好試合ながら、挑戦者がパンチを貰う度に鼓動が高まる。

 

7回、王者の正面に立った瞬間。

ワンツーから左フックまで3連打を被弾。

 

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"見えてない貰い方"の様に感じて...

心配で、苦しい。

 

八重樫の血が目の前で飛び散った。

心臓が握られる様に痛い。

 

打ち返す八重樫の左右のボディーも確実に入っているのでダメージは蓄積されているはずだけど、ムザラネを崩すにはあと何発必要なんだろうか。


もしボディでダウンが奪える瞬間を100とすれば、今は60ぐらいまで来ているのか?

それとも、もっと遠いのか。

 

「東さんいいよ!ボディいい!」

 

威勢の良い女性ファンの声が聞こえる。

彼女は祈る様なポーズで声を張り上げていた。

 

「東さん、ここ!正念場だよ!」

 

東コールで沸き上がるアリーナ。

 

あきら!あきら!あきら!

 

その声に応えるかの様に、ムザラネに左フックを見舞う激闘王。

 

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あきら!あきら!あきら!

 

効かせたい。王者は予想通りの強さ。

この相手を効かせたい。

 

懸命に戦う八重樫にチャンスは来るのか。来ないのか。試合展開そのものは、望んだ流れになっているんじゃないか。

 

8回。

深いダメージを負ったのは八重樫だった。

 

王者の左のボディフックを急所に被弾。

動きが止まる。

 

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効かされたボディーに更に追撃を受ける。

下から上への打ち分けも避けきれない。

 

タオルを投げようとした大橋会長を松本トレーナーが止めるのが見えた。

 

悲鳴がこだまする中、懸命に打ち返す八重樫。

 

それまで黙って観戦してたスーツ姿の男性ファンが初めて叫ぶ。

 

「東!クリンチせえ!」

 

悲鳴と東コールが交わる中、なんとかピンチを乗り切った。

 

そして、ラストラウンドとなった9回。

 

熱い闘志を見せるボクサー八重樫東。

ガード越しの被弾でも体がズレる。


効かされたのは8回のボディーだけじゃない。

序盤から蓄積されてきたダメージがある。

 

王者の左ストレートがモロに激闘王を貫いた。

 

これまでか・・・

 

それでも打ち返そうと前進する八重樫を、レフェリーは静かにそっと抱きかかえた。

 

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右を打とうしている様に見えた、その瞬間。

試合終了。

 

終わった・・・

八重樫東の偉大な挑戦が、終わった。

 

悲鳴と歓声の嵐が消えて、静かな場内。

泣き声らしきものも聞こえる。

 

誰もリングから目をそらしてない。

集まった全員が彼の挑戦を見届けた。

 

リングから降り、花道を戻る八重樫に熱い歓声と拍手の雨が降り注ぐ。
雨はやがて嵐になり、叫びに変わる。

 

 「八重樫ありがとう!」
「東さんおつかれさま!」

 

退場時の歓声と拍手の大きさは、プロボクサーの"何か"を示すバロメーターだと思う。

 

八重樫の背中が見えなくなってから、近くの席に坂本博之氏を発見した。坂本博之と横浜アリーナといえば、あの畑山戦。

 

敗れた彼が退場する時の熱い歓声と拍手の記憶がフラッシュバックする。

 

彼は今日の八重樫の戦いをどんな気持ちで見つめ、どんな感想を持っただろうか。

 

 

 

激闘王との思い出

ムザラネ戦が発表された後のある日。
試合まではだいぶ先のタイミングの平日。

 

ある方の計らいで素敵な御縁をいただき、僕は八重樫さんとご一緒出来た。好きな事を発信し続けるだけで、こんな幸運があるのかという驚き。嬉しいという言葉では表現しきれない感動の時間。

 

八重樫さんと、僕を呼んでれたAさんと3人でじっくりと会話した思い出の時間を共有したい。

 

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「はじめまして。ただのボクシングファン。Tokkyと申します」

「ツイート見かけますよ。ボクシングお好きですよね!」

 

何度かツイッター上でリプライをくれた事はあったけど、名前を認識してくれていたとは。

 

嬉しさの余り、すぐにビールを飲み干すと3階級王者がグラスにビールを注いでくれるではないか。


うま過ぎる。

このお酒はうま過ぎる。

 

ひとしきり八重樫さんの近況やAさんの近況の事を話した後、Aさんが素晴らしいアシストをしてくれた。

 

「Tokkyさん、聞きたい事がいっぱいあるでしょう」

 

そのフリ。待ってました。
開口一番出てきたのはこの質問。

 

「今まででご自身が一番誇れる試合、好きな試合はどれですか?」

「一番の試合か。。そうだなぁ。。う~ん。。」

 

これだけ考えてるという事が、その答えなんだろう。

 

「どの試合も一生懸命に戦ってきたので、ひとつ選ぶのは難しいですね。毎回必死ですから笑」

 

意外だった。てっきり世界を獲ったポンサワン戦や、男をあげたロマゴン戦。もしくはソーサ戦あたりを予想していたので、このリアクションこそザ・リアル。

 

僕が一番好きな試合はポンサワン戦なので、それを伝えたい。

 

「一ファンの意見を聞いてくれますか?」
「もちろん」

 

ポンサワン戦が好きな理由を話した。
あの試合はボクサー八重樫東の魅力が凝縮されており、且つ世界を獲った試合。

 

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序盤は足を使って相手の突進をいなし、見事なフットワークを見せつけてからの~中盤からは打ち合いで激闘王の本領発揮。そして終盤に"ターミネーター"のタフガイ、ポンサワンをTKOで仕留めるという最高の試合。

もう何度見たことか。

 

目を細めて聞いてくれるご本人を前に、ついついロマゴン戦の話しまで続けてしまう。

 

「9月5日が来る度に思い出しますよ。ロマゴン戦」

 

ここで八重樫さんの口から、またも意外な言葉が飛び出す。

 

「えっ?ロマゴンとやった日、9月5日なんですか?」

 

なに~!! なるほど…

実はこのパターンはけっこう多い。

 

あの竹原慎二氏も先週、伝説のカストロ戦の記念日を「あぁ今日か。言われて思い出したわ」と動画の中で言っている。

 

戦う側と見る側との違い。

もちろん人によっても違う。

 

試合の記念日に熱く胸を焦がし、何度も動画を見返しては長文ツイートを打ちまくるファンは自分以外にはあまり見かけない。そうか。僕が変わっているだけのかも^^

 

そして何の脈絡もなく唐突に、ぶっちゃけ大橋会長どう思ってます?みたいな事も聞いてみる。

 

「尊敬してます。大橋会長はもう本当に、心から尊敬です」

 

やっぱりそうなんだ。
テレビ画面からも、その人望は伝わる。大橋会長が選択試合でリカルド・ロペスを選んだ一戦は日本ボクシング界における"本物志向の原点"だと思うし、今も熱い魂で後輩達に接し、そのイズムは受け継がれている。

 

挑戦する事が発表された王者ムザラネについては、色々と対策を張り巡らせている様子だった。ムザラネの試合を2008年のドネア戦から日本での黒田戦まで見て思うのは、ボディーを打たれていない事。手が長いのでガードすると打つところがなくなる。

 

「そうなんです。彼はこれまでボディを打たれてない」

 

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激闘王の目の奥がキラリと光る。
きっとボディーは狙っていく気だろう。

 

長い手でどれだけガードを固めようが、隙間に鉄拳をブチ込む勇気と闘志は元から持ってる。後は具体的な戦略を詰めてそこから・・・

 

はぁ。カッコいい。

 

お互いの家族の話題になった時、僕が川嶋勝重さんのお店で結婚指輪を買った時のエピソードを話した。川嶋さんは八重樫さんが所属する大橋ジムから生まれた初の世界王者で、現在は世田谷区でジュエリーショップを営んでいる。

 

八重樫さんはこんな事を言ってくれた。

「本当に、ボクシングが好きなんですね」

 

はい。ボクシングが好きです。
そして、ボクサー八重樫東の試合が好きです。

 

「Tokkyさん。この前、パッキャオvsマルガリート戦の動画をツイートしてましたよね。当時、あの試合の動画をスマホに入れて何度も見てました。僕は体が小さい事がコンプレックスだったので、小さい者が大きい者に立ち向かうあの試合が大好きなんです!あのパッキャオの戦い方もすごく研究したんですよ」
 
なんですかそのエピソード…
熱いモノが込み上げる。

 

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こんな貴重な場に呼んでくれたAさんには、心から感謝しかない。驚くなかれ、実はAさんともこの日が初対面!

 

なぜ面識もない僕を誘ってくれたのか。

 

「ブログをいつも拝見してて、熱いボクシング愛を感じました。東さんに会わせたいと思ったんです」

 

人生って、こんな事もあるのか。

好きなモノを好きだと"発信する"のはとても大切だと改めて実感。発信し続けたからこそ、この日の出会いはあったのだから。

 

僕が帰る時、八重樫さんはお店の外まで見送ってくれた。

「今日は、ありがとうございました」

言おうとした事を先に言われてしまった。

 

「試合楽しみです。勝利を願ってます!」
「頑張りますので!」

 

手を振る激闘王の姿がだんだんと小さくなり、やがて見えなくなった。

 

ボクサー八重樫東はきっと、結果はどうあれ"八重樫東の試合"をするだろう。もし敗れても、観る者の魂を揺さぶる試合をするに違いない。

 

彼は勝とうとしている。

 

命を懸けて、勝利を掴むと言っている。
ファンも皆、その姿を望んでいる。

 

帰り道。AさんからLINEが届いた。

「馴染みの店がね。会場に行けない常連達で試合を見る為に1台だった店内モニターを2台に増やしたんですよ。『奮発したさ。皆で東ちゃんを応援するから』って。なんだか泣けてきました」


12月23日。八重樫東は勝利する。

ただ、そう切望する夜だった。

表現者達

冬の晴れの日。12月23日。

 

ボクサー八重樫東は懸命に戦い、9回TKO負けで敗れた。

 

前日の22日は後楽園ホールで全日本新人王戦の決勝が行われており、SNS上は新人王戦で勝った選手、敗れた選手、そのファン達の発信と23日のトリプル世界戦の話題が飛び交っていた。

 

そんな中、新人王に輝いたある選手のツイートが強烈に胸に突き刺さる。

 

フェザー級の前田稔輝のツイート。

 

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サービスや商品ではなく夢や希望を売る職業。命を懸けて戦うことで、見る人に何かを感じて貰う。それがプロボクサーだと。

 

退場する八重樫に降り注がれる熱い歓声と拍手は、その"何か "をファンが感じた証拠。未来を担う若手の選手から、この言葉を聞けたのが嬉しい。

 

続いてミニマム級の森且貴のツイート。

 

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試合が終わり全日本を獲るという結果も出した。休もうと思ったのに彼はなぜ、ジムに行くのか。


同じく期待のホープ、松本圭祐のツイート。

 

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永遠のファン。

彼はなぜ、それ程の言葉を使うのか。

 

そして2年後の世界王者もこうツイートしている。

 

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いつまでも八重樫東が一番の憧れ。
そこまで惹かれる魅力はどこにあるのか。

 

モンスター・井上尚弥のコメントも、ボクシングを愛する彼の心からの本音だと思う。

 

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数多くのボクシングファンは勿論、後輩ボクサー達をここまで強く惹きつける八重樫東の魅力。

 

それは言語化すると何なのだろう。

 

ふと流れて来た、芸人の陣内智則のツイートにヒントが見つかった。 

 

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陣内氏の「セミの一週間」というネタを見て自殺をやめた少年の手紙。

 

素晴らしい。
これがアーティスト、表現者が持つ力。

 

そしてそれは芸人や音楽家だけじゃない。

全てのボクサーは表現者。

 

人生を懸け、生き様を見せるアーティスト。

 

この陣内氏のツイートを読んでから八重樫の試合を見返している時、「元気玉」というキーワードがおりてきた。ドラゴンボールに出てくる最後のキメ技、元気玉。沢山の人から少しずつ元気を集め、巨大なエネルギーの玉を作り上げる。

 

ボクサー八重樫東の試合は見る者に感動を与える。感動は元気になり、元気はエネルギーになる。

 

きっと彼が試合をした日は、空のうえに元気玉があるんじゃないか。

 

ムザラネ戦は僕にとってまた、忘れらないメモリアルファイトのひとつになった。

 

ご本人はどう思ったのだろうか。

全てを出し切れたのだろうか。

 

八重樫東とモルティ・ムザラネ。
あの日あの場所で、熱い試合をありがとう。

回想:加藤との会話②

村田諒太が見事なKO勝ちで初防衛を飾り、饒舌な勝利者インタビューが終わりそうなタイミングで、出口が混む前にアリーナを出た。

 

駅まで歩く途中。

リングサイドからの興奮を一方的に呟いたまま放置していたツイッターが騒がしい。

 

スマホを見ると画面がLINEの緑色に変わる。LINE電話の着信が来た。相手は加藤だった。

 

「八重樫さんの試合、会場で観たんですよね?」

 

観たよ。超近い距離でね。
 
「今度、会場でボクシングを観たいです!」

 

そうか。そう思う試合だったんだ。

 

電話を切って空を見上げる。

黄色い月の様なものが綺麗に光っていた。

 

あれはきっと、八重樫東が作った元気玉に違いない。