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【実録】ボクヲタのホワイトデー 1999年編

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魂のリアル観戦記。
幻の夜の長い観戦記。

濃い~記事が多いこのブログですが、たまにはちょっとコーヒーブレイク!

1999年3月14日のホワイトデー。
世界ヘビー級王座統一戦。

ホリフィールドvsルイス。

この試合の前後の思い出の回想記。

前回のバレンタイン1999年編の続編となる、ボクヲタのホワイトデー1999年編です。

INDEX

3月10日(水)

学校の後、バイト先のガストに向かう。

この日は18:00~21:00のシフトで美雪さんも同じ時間のシフトに入っていた。21:00で仕事を終えて休憩室で一緒に夕食を頼んだ。アルバイトスタッフならタダにはならないけど定価の25%引きでお店の料理を頼める。

僕はハンバーグで、美雪さんはサラダうどん。うどん少なめでシーチキン多めに入れる拘りの彼女のサラダうどんは僕が作っていた。

「今度、映画でも行きたいね」
「私、あれが観たい!パッチアダムス。知ってる?」
「知らない。どんな映画なの?」

パッチアダムスのあらすじを聞いたら面白そうだったので、公開日に観に行く事が決まった。

「公開は3月20日なの。21日の日曜はどう?」
「オッケー。楽しみだね」

3月12日(金)

学校での栗田との会話。

この週末に行われるビッグマッチ。イベンダー・ホリフィールドvsレノックス・ルイス戦の事を話した。久々にヘビー級の統一王者が誕生するか?というボクシング界注目の大一番。この試合の予想や希望に関して僕と栗田の思いは同じだった。ルイス有利だけど、心情的にはホリィに勝って欲しい。

「サイズ、リーチ、パンチ力もルイス。ホリィが勝っているのはファイティング・スピリット。ピンチからの粘り。中に入れた時にどれだけ打てるかやね」「序盤から中に入ってルイスのボディを叩ければ面白い。けど、そうはさせんやろう。強い右でホリィの侵入を止めにかかるはずや」

デラ・ホーヤvsクォーティー戦の時と同じく、当日は栗田がウチに来て一緒に観る事になっていた。デラ戦の時は40歳過ぎの僕の母に彼がやらしい視線を向けるという珍事が起きていたが、今回はその日、母は不在の予定。

「残念なお知らせ。おかん居ないよ」
「はぁ?何がやねん。ボクシング観るのが目的やんか」

そう言いながらも栗田の瞳の奥に一瞬だけ、落胆の色が映ったのを見逃さなかった。

コイツめ・・

3月13日(土)

この日は朝から夕方までガッツリとバイト。

休憩室で昼食を食べながら、次の給料でどの試合のビデオを買うかを考えていた。国内の名勝負関連を制覇したら次は海外の試合に触手を伸ばす事になる。リングジャパンから沢山のVHSが発売されており、この頃のマイブームは80年代の中量級。ハグラー、レナード、デュラン、ハーンズ達が繰り広げた死闘シリーズを映像で観たい。

さてどの試合から買おうかな~。

その時、部屋のドアが開いて店長が入ってきた。

「俺も昼食べるから、ご一緒していい?」
「もちろんです」

店長は自分で焼いたサーロイン・ステーキを持ってきた。焼きたてのステーキの良い匂いが室内に漂う。

「明日、ヘビー級の凄い試合があるんでしょ」

そう話しかけてくれた店長に、僕は別の事が聞きたかった。高野さんというアルバイトと店長が付き合っているという噂。ただの噂か本当なのか聞いてみないと分からない。今なら聞いても大丈夫そうかな、と思いきや店長の方から"それ系のコト"に話題を変えて来た。

「若い子が多いお店だしカップルが出来るのは良い事なんだけど、僕の立場としては誰と誰が出来てるとかの情報は常にアップデートしておきたいんだよね」

「それはそうですよね~」

なんとなくこの流れは・・・君は美雪ちゃんと付き合ってるの?と聞かれる流れかなぁと思ったけど、次に店長が発したのはあっさりとしたカミングアウトの言葉。

「実は俺ね、高野さんと付き合ってるんだ」

「えっ!あ~やっぱり」

「そう。知ってた?」

「噂には聞いてました。本当なんですね」

「なんか"噂"ばかり広まってる気がしたから、事実だと言ってしまいたくて^^ 俺も35だし結婚も考えてるワケだし」

「そうなんですね。シフト制だから全員が揃う事はないし、噂はホントですと発信するのも難しいのですね」

「そうなのよ。だから最近、こうしてサクッと報告してる」

この頃、店長だけじゃなくマネージャーもお店のアルバイトと付き合っていた。フリーターや大学生、高校生が多いのだから、アルバイト同士でのカップルも何組か居たのを知っている。

他人の話を聞いていると、やれやれ皆お盛んだね~と思うが僕自身はどうなのか?というと、 御多分に漏れず美雪さんと付き合っていた。

3月14日(日)

ホリィvsルイスの日。

この日はバイトを17:00~21:00のシフトにしてじっくりとボクシングを観る時間を確保しておいた。WOWOWの中継は午前10:00~から始まり前座試合の進行が進んだ11:30頃。メインが始まりそうな頃に栗田が来た。

「久々にヘビー級の統一王者誕生か!テンションあがるぅ~!」

「下馬評はやっぱりルイスみたい。今日は頑張れホリィでいこう」

煌びやかなリングに入場して来る2人の世界ヘビー級王者。華やか過ぎる。いつかこのレベルの試合を現地で観たい。

初回、ホリイが勇敢に左右を放つ。
ルイスは冷静に対応して距離感を探っている感じ。インターバル中にホリィの奥様?らしき女性が映った時に栗田が呟いた。

「こういう奥さんもエエよなぁ~」

コイツは一体どれだけ熟女好きなんだ。
率直に聞いてみた。

「なんでそんな熟女好きなん?」
「なんでやろうなぁ。自然と。今付き合っとるのも20歳年上やし」
「はぁあああ?」

2回。ルイスの打ち下ろしの右がホリィを襲う。ジャストミートは無かったけど、あと数センチずれてたら・・というタイミングで何度もホリィの側頭部に右を叩きつけるルイス。

「彼女おったんか!しかも20歳年上!?」
「そうよ」
「そうよって・・知らんかったし」
「だって、言うとらんもん」

ルイスの右!
間一髪でかわすホリィ。
空振りでも迫力満点の右ストレート。

「20歳上は衝撃。相手は38歳って事かよ」
「そう。バツイチやて」
「はぁああああ?」

3回。ルイスのジャブをかいくぐりホリィの左フックが浅めにヒット!ホリィの連打。いいぞホリィ。これを続けたい。しかしルイスは全く顔色を変えず打ち返す。

「どこで知り合うの。そんな年上と・・」
「普通にバイト先。そういやTokkyもバイトしとったな。そっちは出会いないの?」
「あったよ。彼女出来たよ」
「はぁあああ?」

5回。ルイスの右ストレートでホリィの動きが止まった。ホリィ、ピンチ!ルイスの右アッパーも被弾して足元が揺らぐ。

「そんなに驚くなよ」
「聞いてへんぞ」
「だって、言うとらんもん」

6回から9回。両者が良いパンチを入れ合い、お互いに譲らない展開。

「いくつの人なん?」
「ひとつ上。19歳」

10回。ホリィが勝負をかけるもルイスは悠然と打ち返す。やりたい事が出来ているのはルイスか?

「19歳か。俺の彼女のちょうど半分やな」
「なんじゃそりゃ」

11回12回は揉み合いの中で、両者とも決定打を欠いた展開に見えた。そして試合終了。下を向いてコーナーに歩いていくホリィと右手を突き上げて勝利をアピールするルイス。2人の表情は対照的。

栗田が判定の予想を聞いてきたけど、正直言ってあまり試合に集中できなかった。

18歳が38歳と付き合うって・・そりゃあ世の中には年の差カップルなるものは星の数ほど存在していて、20歳の年の差カップルなんてどの国にも沢山いるだろう。とはいえ日本全国で何百組もいるとは思えない。希少な事例がこんな近くにいたなんて。

ジャッジの集計結果を待つ間。「ホリィも頑張ったけど、僅差の3-0でルイスかな」確かにそんな流れだったなと思ったけど・・

採点結果はまさかのドロー!

期待された久々のヘビー級統一王者は、まさかの「誕生しない」という結末だった。そして試合内容を上回る栗田の告白のインパクト。ヘビー級に負けないパンチ力だった。お相手の写真はあるのかを聞きたかったけど、見せるからおまえのも見せろという展開は避けたくて聞かなかった。見せても良いけど、この日はそういう気分になれなそう。久々のカルチャーショック。

栗田が帰った後で頭の中を整理してから、試合をフルラウンド見返してみる。別にドローでおかしくない接戦だと思った。

3月21日(日)

約束通りに美雪さんと映画館。

パッチアダムスという映画は・・

たぶん面白かった。

前日の深い夜更かしで寝不足だった僕は、ぬわんと映画の上映中に寝てしまう。80年代の中量級四天王シリーズが面白すぎて夢中になり、気付けば明け方という失態。

怒るかなと思ったら、美雪さんは怒らなかった。一瞬で原因を見抜き、優しい口調で聞いてきた。

「絶対ボクシング見てたでしょ^^」

言い訳しない方がいいと思った。

「5時までビデオ見ちゃって。ごめん」

「ホント好きだよね~」

「昨日届いたのが面白すぎて・・ごめん」
「いいよ。でもこういう時ね。映画の感想を言い合いたかったのに~って怒る子もいるから」

そうだよね~と言いながら夕暮れの街を歩く。一週間遅れのホワイトデーのお返しを忘れず持ってきたかどうか不安になってバッグを確認。良かった、忘れてない。

この時、ある考えが浮かんだ。来週にでも一人で映画を観て内容を把握しよう。そして彼女と感想を語り合う。喜んでくれるに違いない。

「ねぇ。別に1人で観に行ったりしなくていいからね」

「え~!なんで行く前にバレるの笑」

「私、Tokkyの考えてること分かるから」

全部は分かっていないだろうし、言ってないことも沢山あるよ。そう思う気持ちよりも、嬉しい感情のほうが大きかった。

「と、言いつつ分からない事があるから聞いていい?」

「うん」

「一番好きなものは何?」

一番好きなもの・・
そんなの、決まってる。

空を見上げると、綺麗な形の入道雲が浮かんでた。それは美雪さんの横顔の様に見えるし、グローブの形にも見えた。

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